研究室 大町です。
2020年ごろから自身の楽曲制作に役立てるため、EQ(イコライザ)の研究を始めた。
様々なエフェクト・プラグインの中でもシンプルであり、最も奥深いエフェクトであると私は思う。DAW上だけでなく、PAにも共通する。
当時私の作業環境にモニター・スピーカーはなく、Sony MDR-900STのみで楽曲を制作していた。音楽制作に携わる者や音響関係に携わる者であれば一度はその音質を耳にしたことがあると思うが、非常に軽い(低域があまり感じられない)音質をしている。
正直、900STのみで制作するというのは、今になって恐ろしいとさえ思う。
実際ミックスダウン後の音源を聴いて低域が異常に出てしまっていた。
当時はそのギャップを埋めるためにEQを深く学ぼうとしたのが、本研究の始まりだったように思う。
モニタースピーカーを手にした現在もヘッドフォンは900STを愛用している。まあ10年近く本機を使い制作しているとなると、900STで完璧に製作できるように耳が育ってくるものだ。900STを悪く言う者もいるが、業界標準機なので900STに慣れるしかないと私は思う。
話が逸れたが、先述したような経緯が私にEQを研究せざるを得ない環境を作った。
DAW上で使用する音源のほとんどは収録されたまま、未加工の状態であるため、理論上は20Hz〜20kHzくらいまで鳴っている。無論音源をそのまま使ったようでは、他楽器と調和するはずがなく、協調性に乏しい音となる。
特にベース等の低域がひどいものである。低域モコモコとはまさにこのことだ。
低音楽器は非常に優れた音色であることは間違いない。低音域ほど我々を高揚させてくれる楽器はないとさえ思う。故に、低域にEQを中途半端にすることなど、あってはならない。
DAW上ではFrequiency2を使用しており、8バンドはバランスが取れていると感じる。
私は研究を始めた当時、様々な周波帯でCut96を適用し、書き出しては聴き、書き出しては聴き、をモニター用の900st以外に、リスニング用にしていたAirPods ProとPowerBeats Proで聴き比べていた。
特にひどかったのはAirpods Proのほう。聴きやすいサウンドをしているだけあってマイルドなのだが、低音域の出方もかなり調整されていた。周波帯的にはそれほどレンジが広いわけではないのだが、未調整の状態ではなんというか、低音域の圧がひどい。
空気感を潰し、コンプがかったような音で、心地よい、とは感じなかった。
私はAirpods Proでも心地よく低域がなる丁度良い場所を探した。ちなみにスピーカーでは低域をそこまで感じない。なぜなら音源から耳に到達するまでの距離があるから。
これがヘッドフォンだと厄介で、耳との距離が近い分、空気感を演出しにくい。
空気を通さなくても空気を伝達していく際の軽やかさを演出すること、どこか遠くにスピーカーが置いてあるかのような音場を作ること。それが本研究のゴールだった。
録音する際も空気を通しているのだから、アウトプットの際も空間がデッドになりすぎると不自然になってしまう。つまり距離を含めた出音のバランスをEQを用いて”0距離”で表現する。そうすることで、別世界が楽曲から見えてくるのだ。
私の研究では、”一般的に”67Hz以下はCut96を適用するべきだというところに辿り着いた。先述したAirpods Proでも非常に心地よいベースラインを聴くことができた。非常に汎用性が高いことも特筆すべき点だ。どんな環境でも67Hz以下をカットしておけば間違いない、というような安心感がある。
“一般的に”と表記したのは、楽曲のキーによって異なるからだ。63Hzにすることもあるし、57Hz程度にして、2バンド目も63〜67Hz程度に持ってきて滑らかなカーブを作ることもある。
これは私の研究において最も有意義な結果をもたらしたと思う。
正解のない音楽という分野で”こうした方が良い”と言えることは何もないが、私はこの研究結果を他者にどれほど批判されても、生涯貫き通すことを決心している。
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